富士登山の旅(その3)

2007-08-22 (水)
- 紀行文/東海地区

ついに富士登山を開始するも、六合目に着く前から足のふくらはぎはパンパン。おまけに雨まで降り出す始末。
先が思いやられてきました。

ウサギとカメ

ウサギとカメというイソップ童話があります。
ウサギとカメが山頂を目指して競争をすることになりました。ウサギは俊足を生かしてどんどんカメを突き放します。 余裕ぶっこいたウサギは居眠りをしているうちにカメは………。

というお馴染みのお話。

束の間の岩場地帯を抜けると、再び樹林帯の中に入ります。
その樹林帯の中に入ってしばらく歩いていたときに、へばったように休憩している一団に追いつきました。

なんと五合目を出発して暫くして、ハイペースで追い抜いていった大学生と思われるパーティーでした。

……間違いない。
追い越され際にそのパーティーの中に可愛い(と思われる)女の子が1人混じっていたのを脳裏に記憶していたので間違いない。
「こんばんわー」「お疲れ様ですー」と声を掛けながら(※1)、追い抜いていきました。

(※1)声を掛けながら……山を登ると他人と自然とこういう会話をしてしまうから不思議なものです。

(まさか追いつくとはね……)

追い抜き際にそのパーティーの会話を聞くと
「やべぇ、俺、高山ってるかも」「本当?深呼吸して」
という内容に密かな笑いを禁じ得ませんでした。

高山ってる(※2)って………なんだよ、それ。

(※2)高山ってる……"高山病にかかってしまった"という意味か。どれだけ日本語が乱れているのか。

これは余談ですが、我々がこのパーティーに再び抜かれることはありませんでした。 ハイペースで登ると大変なことになりますよ、ということで。

六合目(長田山荘)到達

いつ終わるとも知れない登山道。
樹林帯の中を1歩、1歩足を踏みしめていると、突然これまで土の斜面と岩の階段だったのが、明らかに人為的な石の階段に変わりました。
(おっこれは、もしかして……!)
そうとわかれば歩みも自然と軽くなります。

五合目を出発すること約2時間10分。
21時40分。
ようやく六合目(長田山荘)に到着。

長田山荘 fig.六合目(長田山荘)
富士登山(六合目) fig.ようやく六合目

山荘前に用意してあるベンチに崩れるように腰を掛け、ひとときの安らぎを得ます。
まぁこれだけあるいのだから、さぞかし標高も高くなっただろうと標識を見ると……、

標高 2,450m

スタートしてからたった450mしか登ってないのか!
これまでの苦労をぶち壊し、気力を萎えさせるには十分すぎる数字でした。

ちなみに富士宮口のスタート地点は2,400m。ここまで車で来ることができるのかと思うと……なんとも言えない気持ちです。

山小屋の前には飲み物の自動販売機があります。ちなみにお値段はカン300円、ペットボトル400円。 早くもインフレ状態。

明日はきっと晴れ

六合目で20分ほど休憩したでしょうか。休憩前は体全体に気怠さを感じていたものの、出発する頃には再び一歩足を踏み出そうという気力が湧いてきました。

ところが5分も歩かないうちに六合目到着前の状態に逆戻り。湧いた気力は5分で萎えました。

周囲は木々や草に囲まれてはいるものの、その木々の高さは低くほとんど灌木の中を歩くようでした。 そしてその分、轟々と吹く風が体に強く当たるようになりました。 木や岩でできた自然の階段を1段上がるたびに疲労が蓄積されていくような気がします。

高所のせいなのかあるいは疲労のせいなのかはわかりませんが、すぐに息苦しくなるような感じがして、 自分は意識的に深呼吸をするように心がけていました。

22時35分。
ふと夜空を見上げると雲が開けたところから満天の星空がその姿を見せてくれました。 あまりにも星の数が多いと、有名な星座もどれか判別できないぐらいになります。そこにあるのは、ただ、もう星、星、星。

その星々を見た瞬間に一同大歓声。
「すぐそこまで星に手が届きそうだ」
「この調子だとご来光が拝めるかもしれない」
星空を見るだけで、これまでの疲れも癒え(※3)、登頂への希望も湧いてきました。

(※3)疲れも癒え……疲れも"吹き飛ぶ"という表現は出来ません。やっぱり疲れていますから。

この辺りから体に当たる風のせいもあるでしょうが、急激に空気がひんやりと感じるようになってきました。 まだ肌を刺す冷たさというまではいきませんが、秋に紅葉狩りのために山に入ったぐらいの冷たさでした。

山の斜面を見れば、山小屋の灯りがもう手の届くところにありました。
そこが次の大休止地点である山荘「瀬戸館」。
その灯り目指して灌木地帯の斜面をつづら折りに登っていきます。

あと少し、あともう少し。

そして。
22時45分。
出発から約3時間15分経過。

われわれは山荘「瀬戸館」まで辿り着くことができました。

瀬戸館(標高2,700m)

瀬戸館 fig.真っ暗なのでこんなもの
瀬戸館の風景 fig.山小屋は灯りがあるだけでした

富士山の高さは標高で表されることはもちろんですが、山を10に区分して何合目という表現(均等割ではありません)もあります。
私たちが車で上がった場所は五合目。
それから登っていくと六合目、七合目……と数字が上がっていき、九合目、そして山頂。という流れになります。

富士山に登っていると標高ナントカメートルと言われるよりも、何合目という表現をした方が登った気になります。 一番大きい単位の数字が上がっていくためでしょうか。

そのため五合目(須走口)から六合目(長田山荘)まで登ったときは、数字が増えたことに何とも言えない達成感を味わったものです。 ほんの1時間前の話ですが。もうずいぶん昔の出来事のようです。

なぜ今になってこんな話を持ち出すのか。
瀬戸館の看板を見たときに、その文字は私の気力を打ち砕くのに十分すぎるほどでした。

出発地点は新五合目。
最初の休憩地点は六合目。
と、すれば次の休憩地点は七合目と思うのが人間として当然の心理。あとは8、9と登れば山頂はもう目の前のはず。

ところがそこにあった文字は、

六合目。

…………………。

というと、なんだ。さっきの山小屋はニセ六合目か?(正しくは六合目)。
次の山小屋は「真」六合目。その次は「超」六合目。さらにその次は「ファイナル」六合目とか、続々と六合目シリーズが続くんじゃねぇか?

本気でそんなことを考えてしまいました。 まぁ名古屋で言うところの「山本屋総本家」か「山本屋本店」の違い(※4)と同じでしょうか。

(※4)「山本屋総本家」か「山本屋本店」の違い……味噌煮込みうどんの老舗。両店舗ともに「ウチが元祖」を主張している。

T橋君は途中から相当辛かったらしく、ここでも携帯酸素を吸引していました。 けれども上は星々、下は街々の灯りを見ながらしばらく休むと、だいぶ元気を取り戻したようでした。

本六合目にて fig.街の灯りと星の光に心を奪われる

自分も本六合目に到着したときには、崩れ落ちるようにして座り込むほど疲れ切っていたのですが、 20分ほど座ったり夜景を眺めたりするうちに、少し元気を取り戻しました。
しかしそうは言っても周囲の風景を撮影しているということは、まだそれなりに元気はあったのでしょう。今になって思えば。

ゴールまであと1,000m。
しかしこのときはこれが苦難の始まりに過ぎないことを知る由もありませんでした。

(つづく)

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